秒速340mを超えていけ
はじめに
2024年6月7日、全国で公開が始まった総集編前編、私も公開初日にウッキウキで見に行きました。OP・EDとして2曲の新曲が映画の中で歌われるわけですが、それぞれ演出・歌詞が大変すばらしく情緒破壊されてしまったので、書き殴ります。
当初2曲まとめて感想文を書こうと思ってましたが、9日のサブスク公開に合わせて『月並みに輝け』の公式リリックビデオが公開されたので取り敢えず単体でこちらを取り上げようかなと。
映画自体は総集編ということでアニメ版を見ていればネタバレというほどのネタバレは存在しないはずですが、新規演出もありましたし何より、総集編前編としてこの曲を噛みしめた感想文なので映画を見てから読んで頂く形のほうが良いかもしれません(新規演出に関する若干のネタバレを含みます)
タイトル
まずはタイトルから噛みしめていこうかなと思います。月並みという言葉を調べるとweblio辞典ではこのように説明されています。
【二】[名・形動]新鮮みがなく、ありふれていて平凡なこと。また、そのさま。
この意味通りに受け取ると、「ありふれている、平凡に輝く」という意味になるでしょうか。これは劣等感・コンプレックスといったものが人一倍強い後藤ひとりという少女が自分なりに輝けと言っていると受け取ることが出来る気がします。しかし、ぼっち・ざ・ろっく!という作品において「月」という存在は重要なファクターになっており「月・並みに輝け」つまり、月のように・月と同等に輝けという意味に取る事が主題なのかなと感じます。
まず、アニメ本編OPである『青春コンプレックス』の歌詞に次のような一節があります。
深く潜るのが好きだった 海の底にも月があった
これは海の底、誰もいない・見つけないような場所にも輝く場所、輝ける場所があったという歌詞だと解釈しています。
そしてアニメ1話冒頭、ギターを練習し始め数年が経過した本編開始部分では満月の月が、1話終盤では夜空を見上げ決意を胸に帰路に付く後藤ひとりの姿が描かれます。その後も事あるごとに夜空・月・星を交えた描写がアニメ内で多く存在する事からこれらはぼっち・ざ・ろっく!という作品にとって、何より後藤ひとりを表す象徴的なものなのでしょう。
この事から『月並みに輝け』というタイトルは言葉通りの意味合いと、後藤ひとりという少女が思い描く輝き方=月としての将来への思いを表していると感じました。
歌詞
さて、では本題の歌詞に入っていきましょう
天才だって信じてた バカみたいだ
映画はアニメ5話中盤、練習から帰るぼっちを呼び止めジュースを奢る虹夏ちゃんのシーンから始まります。虹夏に声をかけられ、回想をする形でアニメ1話からの総集編が始まる形でしたがこのタイミングでOP曲として『月並みに輝け』は流れ始めます。
曲と共に結束バンド結成以前のメンバーそれぞれの日常が描かれますが、このシーンだけで私は総集編を見に来た甲斐があったと確信しました。特に辞めてしまった前のバンドで活動する山田のシーンめっちゃ良かった。……少々話が脱線しましたが、曲の最初《天才だって信じてた》はそんな回想を始めるぼっちがまだギターヒーローとして一人で弾いていた頃、つまりバンドとして人と合わせずに弾いてみた動画を投稿し登録者数も増え自信をつけていた頃を指しているのだと思います。
そして、その小さな自信は《零れ落ちて割れた》わけですが、彼女はこう回想を続けます。
偶然がなかったなら わたしはまだ 孤独感と手を繋ぎ踊っていたかな
いや~~~ここで孤独感に苦しんでいたとありきたりな表現をせず、手を繋ぎ踊っていたと表現するの痺れますね。手を繋ぎ踊るという事はつまり、受け入れている側面があるわけで、ぼっちが孤独な自分を諦め、受け入れてしまっていた事を思わさせます。
その後歌詞は、いいな いいなと欲しがってたのに (中略) まだだ まだだ まだ足りないんだ 誰の胸にも届かない と続きます。どことなくギターと孤独と蒼い惑星の一節、足りない 足りない 誰にも気づかれない 殴り書きみたいな音 出せない状態で叫んだよ の部分を彷彿させます。恐らく後藤ひとりにとって音楽、ロックは自己表現でありながら自己表現しきれない二面性があるのでしょう。その後歌詞は いつか どうか 秒速340mを超えていけ と続きます。秒速340mこれは一般的に音速とされる速度です。つまり、「音を超えていけ」と歌うわけです。彼女にとって音は2面性のある自己表現。つまり今までにない事を成したいと願っているのでしょう。
そして 革命寸前の未来を睨んだ とAメロを〆ます。革命、そうまたここで『青春コンプレックス』の一節 かき鳴らせ 交わるカルテット 革命を成し遂げてみたいな と連動します。結束バンドというカルテットがかき鳴らす旋律は音を超え、革命を起こす、そんな未来を睨むわけです。
そして、Bメロ
天才だって信じてた 気付かされた 違う音、呼吸重ね合わせ負けた 必然だって信じたい わたしはもう 戻れないよ 無知で無敵だったヒーロー
ここもう情報量の洪水で滅茶苦茶です。前半部分はAメロに続き挫折の歌詞ですが、人と合わせる事が出来ず「ミジンコ以下」とギタ男君に評されてしまった部分、後半はそんなギターヒーローの姿でしょう。しかし、その挫折や自信を失った部分を《必然だって信じたい》とはどういう事なのか。必然の対義語は偶然です。そうこれはAメロで偶然が無ければ孤独だったかもしれないと歌った事に対して「この出会いと挫折は必然だったと信じたい」と答えてるのでしょう。情緒が壊される
わたしの中の わたしが叫ぶ 「君は君だ 誰かと同じ 未来なんて欲しくないでしょ」
ここ色々と思い浮かぶ情景が多いですね。真っ先に思い浮かんだのは山田に歌詞を見せた際に言われた「個性がないのは死んでるのと同じ」でしょうか。ロックとはつまり自己の叫びなわけで、結束バンドとしての音楽性や方向性を指しているのかもしれませんね。歌詞はその後 叶わなくても 叶えたいと願って 奏で続ける 敗北宣言の未来を進んだ と続きます。アニメ内劇中歌ではないのが気がかりですが敗北宣言とは23年春にリリースされた曲『青い春と西の空』を表してるのではないでしょうか?この曲の終盤では 当たり前みたいな顔して 青い春を食らってしまったんだ 白旗を掲げてる 熱くて火傷しそう と歌っています。白旗、つまり敗北宣言ですが青い春を食らってしまった事に白旗を上げています。青い春=青春。後藤ひとりにとっての青い春は十中八九結束バンドとしてのバンド活動でしょう。つまり、眩しくて、火傷しそうな中白旗を掲げ、それでもバンド活動=敗北宣言の先へと進むのでしょう。実際、『青い春と西の空』ではその後 当たり前みたいな顔して 青い春を食らってゆくんだ と進行形へ続きます。
そして最後
革命寸前の未来だなんて 紛れもなく確かな希望だ 天才だって信じてた それでもまだ
曲はこのように〆られます。革命=結束バンドとしての音楽活動という事は前述しましたがそれを"希望"と表現するんですね。そして一番最後、ここまで散々天才だと信じていた自分の挫折を表現していたのに、それでもまだ信じていると締めくくる。これは総集編前編の最後、アニメ8話終盤にあたる部分に結びつきます。このシーンでは虹夏から本当の夢を聞き、ギターヒーローである事がばれ、「本当にヒーローみたいに見えた」と言われ、更には「あーぼっちちゃんの演奏が動画の時みたいに毎回発揮出来たらなー」と冗談半分で言われます。そして、そんな虹夏に対して「結束バンドのギタリストとして頑張りたい」と意気込むわけですが、ヒーローとしての自分を求められた事に対する回答、つまり天才だとそれでもまだ信じるんですね。
終わりに
いやーこんなん聞かされたら情緒不安定になる。ED曲にも言えることですが、この『月並みに輝け』という曲は結束バンドとしての雰囲気を維持しつつ総集編前編に相応しい曲だったのかなと感じます。EDはEDで中々にやってる歌詞なので近いうちに感想文書けたらなと思います(リリックビデオがもしかしたら投稿されるかもしれないので少し間あくかも)
ここまで駄文・妄想お付き合い頂きありがとうございました。初日で既に狂わされて3回見てしまったわけですが、来場者特典次第では2週目以降もチマチマ映画館に足を運ぼうと思います